太陽光発電と森林保護の対立について

森林

「森林」=「自然」といえるのか?

 近年、森林伐採を伴うので、太陽光発電所に反対するという声を多く聞きます。

 電力供給で地球温暖化防止に寄与する太陽光発電
 二酸化炭素吸収と生物多様性、水源涵養機能に寄与する森林

 どちらも、地球環境を考える上では重要です。

 ただ、たまに、森林を伐採することそのものが悪、と考える方もいらっしゃいます。
「自然には一切手を触れないのが一番いい」というわけです。

 ところが、問題なのは、今の日本の森林の多くは、戦後の拡大造林政策によって、本来の自然とは異なる形で、大量にスギやヒノキが植えられたもの。
 「森林」ではあっても「自然」とは言えません。
 逆に、森林の場合、成長が止まると二酸化炭素吸収量は減りますし、放置されたスギ・ヒノキ林の場合、成長が止まり、森林内は暗くなって下層植生も育たず、生物多様性に役立たないどころか、樹幹流という形で雨を集めて水の速い流れを作り、水源涵養どころか土壌流出災害を引き起こしかねません。
 スギ・ヒノキ林でも、きちんと整備され、下層植生が充実していると、生物多様性や水源涵養機能などの森林の多面的機能を発揮できます。
 でも、放置されて整備されないままの「本当の自然とは言えない」人工の林だと、極端な話を言うと、

花粉症という公害の発生源 

にしかなっていない恐れがあります。なお、これは、私が重度の花粉症ゆえの怨念も交じっていることは否めません。
 「森林」だから「自然」ですばらしいという考え方は改められる必要があります。

万能ではないけれど役立つ太陽光発電

 太陽光発電については、日が当たる時しか使えない、または、発電効率が悪すぎて使えない、という話も聞きます。
 ただ、太陽光発電技術そのものは、ものすごい勢いで技術進歩が進み、近年ではベロブスカイト太陽光発電などのようにレアメタルなどの高価な金属を使わず、曲げたり塗布するなど様々な形状に利用できるような商品も生まれています。
 2010年時点ではモジュール変換効率は8~18%といわれていたのが、今では、一番高効率のものだと40%近くだとか。
 日が当たらなければ発電できない、とは言われますが、発電というのは様々な手段を複合して行われるべきで、太陽光のデメリットだけをことさらに強調して、全否定するというのはちょっと適切とは言えません。
 将来的に見れば、太陽光発電で、昼間には余剰電力で水素を生産し、夜間は昼間に生産した水素を使うと言ったことも考えられます。
 もちろん、複合的に使うとしてもなお、問題のある技術、というのは確かに存在します。何十年経っても廃棄物の処分の目途が全く立っていない上に、燃料のウランのそのものの埋蔵量が非常に少ない原子力発電所はその一例といえるでしょう。
 「太陽光発電所の立地として、森林を選ぶべきではない」という場合、その森林が本当に、生物多様性や防災、水源涵養の役に立つ状態であるかどうかは、きちんと確認されるべきでしょう。
 太陽光発電には様々な問題がありますが、だからといって、放置されている森林が正しくなるわけでもありません。ましてや発電方法が、技術開発も進まず資源もない原発しかない、というのも暴論です。

今後の環境立国に向けて

 どこでも太陽光発電を作ればよいというわけではありません。
 ただ、耕作放棄地や廃墟化した宅地など、利用されない土地については、太陽光発電設備を導入するための適地といえるでしょう。
 また、スギ・ヒノキの放置林整備やあるいは針広混交林化や本来の自然の再生を目指していくのであれば、放置林を伐採した後の一部を太陽光発電用地として、その売電収入や発電所用の土地売却の収益をもって、森林整備や自然再生のための費用としていくことも考えていくべきでしょう。

 原発推進に特化しすぎて、日本は現在、太陽光発電でも中国にぼろ負けしています。その影響で、「太陽光発電=中国の利益」と考える方もいらっしゃるようです。
 実際、今の太陽光発電パネルの変換効率なんかを見ても日本は中国に負けています。
 だからといって、太陽光発電を敵視しても、世界の趨勢が太陽光優勢になっている以上、より悲惨な形で日本が負けていく未来しかありません。
 技術競争に勝った中国への嫉妬に基づいて敵視するより、技術開発の方向性を間違えたこれまでの日本の戦略の間違いを反省すべきなのです。
 ただ、現在、太陽光発電の次世代技術として注目を集めているベロブスカイト太陽光発電が普及すると、日本は圧倒的な資源大国になります。
 ベロブスカイト太陽光発電の主な原料はヨウ素なのですが、実は日本のヨウ素生産量は世界第2位で、世界全体の3割近い生産量を誇ります。

参考:産経新聞記事「世界シェア2割強の「ヨウ素」、高付加価値化に期待」(2021/1/20)

 それどころか、ヨウ素の埋蔵量でみると、日本が世界全体の約8割にも達するとのことです。 
 ベロブスカイト太陽光発電の発電効率を見ると、やや中国有利ですが、日本も奮闘しています。
 日本の資源を用いて、日本の技術で生産した商品が、世界中で用いられれば、当然、日本の経済的利益は大きくなります。
 でも、現在、太陽光発電への敵視と軽視がまかり通っているようには思います。
 少なくとも、今の日本は、太陽光発電(と併設する水素生産・貯蔵)を次世代エネルギーの主軸として位置づけていくべきだと思うのですが。
 そして、同時に、森林を守るためと称して、太陽光発電に反対している方々には、ぜひとも、生物多様性と水源涵養と防災といった森林の多面的機能を発揮するために、森林整備のための活動を進めてほしいと思います。
 なお、林野庁では、森林整備を行うボランティア団体のための交付金「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」を交付しています。

林野庁:森林・山村多面的機能発揮対策交付金

 今後の日本の環境を考えるうえで、太陽光発電も森林も両方大事です。でも、森林が大事といえるようにするためには、少なくともスギ・ヒノキ林については整備が必要です。
 森林整備もしないのに、太陽光発電に反対するためだけに都合よく放置林を「自然」呼ばわりしていると、結局は、日本の経済にも、社会にも、環境にもマイナスな結果しか生じないように思います。

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